首都移転にNO!
<東京都知事本局地方分権推進部国政広域連携・首都調査担当>

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首都機能(国家の中枢機能)のバックアップ方策の検討について<概要版>
はじめに ~なぜ、首都機能のバックアップが必要か~
日本全国で大地震の危険性があります
 我が国は地震国であり、日本全国どこにおいても地震の被害を免れる場所はないと言われています。これまで大規模な地震は発生しないと考えられていた中国地方において、昨年、鳥取西部地震、芸予地震が発生し、また、平成13年度に開催された中央防災会議において、東海地震の切迫性及び東南海・南海地震の今世紀前半での発生への懸念が指摘されるなど、新たに中部圏、近畿圏などにおいても防災対策の確立が求められています。
莫大な費用を投じなくても、首都機能の災害対応力を強化できます
 こうした状況のもと、国においては、平成7年に発生した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、高度な危機管理機能を備えた新しい首相官邸の完成し、また、市ヶ谷に移転した防衛庁をはじめ、合同庁舎2号館など、既に多くの霞が関の中央省庁庁舎について建て替え・耐震補強工事が実施・計画中であり、首都機能移転が決議された当時と比較し、首都機能の安全性は格段に向上しております。
 一方、八都県市はこれまでも「展都」と「分権」による首都圏再編整備を進め、首都機能を担い続けることを表明し、そのために必要な防災をはじめ共通の課題の解決のため連携して取り組んできました。また、さいたま新都心広域防災拠点の運用開始や都市再生本部において新たな広域防災拠点の整備の検討が進められるなど、昨今の八都県市の防災能力は従来にも増して向上しつつあります。
 以上のことを踏まえると、首都機能移転の意義の一つとされる災害対応力の強化についても、こうした国や八都県市が有する首都機能の防災能力をより強化することにより、移転の実現を待たずして早期に、しかも莫大な費用を投ずることなく達成しうるものと考えます。
首都機能のバックアップは首都圏の住民、日本全体にとってもプラスとなります
 首都機能をバックアップすることは、大規模地震等が発生した場合にも国家の中枢機能を維持し日本の政治・経済機能の維持・安定に貢献することができるばかりでなく、首都圏の住民にとっても、国の災害対策本部の設置、援助隊の派遣、災害復旧資機材の調達、災害復旧のための法の適用や特別立法制定手続きが円滑に進められるなど大きなメリットがあります。
 また、これらは大規模地震などの自然災害以外にも、テロなどの事件・事故に対して、治安・防衛上有効に機能する手段ともなり得ると考えられます。
被災地の早期復旧・復興、日本の政治・経済機能の安定のために、八都県市による首都機能のバックアップは重要です
 これまでも八都県市は、それぞれ独自の自治体として大規模災害発生時に住民の生命や財産を第一に保護するという地方自治体の本来の責務を果たすために、防災体制を構築するとともに、相互連携を図ってきました。首都機能の緊急避難的な代替機能の検討を国のみならず八都県市が行うことは、首都圏住民の安全を守る上でも、また首都機能を引き続き担い続けるとの立場から国家の中枢機能を維持し、日本の政治・経済機能の安定を図っていく上でも重要であると考えます。さらに、バックアップという視点から防災体制を整備することが、結果的に展都による首都圏整備を推進することにもつながると考えます。
 平成14年に七都県市は協議・検討の題材を提供すべく国や七都県市の防災関係機関からのヒアリングなどをもとに、共同で首都機能のバックアップ方策について検討し、その結果を報告書として取りまとめました。
今後とも、本報告書において提案する首都機能のバックアップ方策の実現に向けて、国と八都県市が連携して取り組んでいくことが重要であると考えます。
(注)本報告書における「首都圏」とは、首都機能を担う八都県市(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市)の区域を指します


- 目 次 -

1.首都機能の防災性の現状把握
1-1 首都機能の定義
1-2 大地震災害発生の危険性
1-3 首都機能等の防災性の現状
(1)中枢機能
(2)防災に関する計画等
(3)官庁施設・職員参集から見た中央省庁等の防災性
(4)防災拠点の整備状況
(5)防災関係機関の対策
(6)ライフラインの対策
(7)交通インフラの対策
1-4 首都圏の防災面の優位性
1-5 首都圏におけるさらなる防災性強化に向けて
2.首都機能のバックアップ方策の検討
2-1 国が実施すべき首都機能の防災性向上の方策
(1)国の防災性向上
(2)中央省庁職員等の参集体制の確立
2-2 首都機能のバックアップ方策
(1)立法機能のバックアップ
(2)行政機能のバックアップ
(3)国と七都県市の一体的な首都機能復旧体制の確立
2-3 七都県市の首都機能バックアップの具体的取組み(案)






首都機能(国家の中枢機能)のバックアップ方策の検討について

1.首都機能の防災性の現状把握
1-1 首都機能の定義
首都機能の防災性を検討するに当たり、以下のような時間設定を行い、災害時において必要となる首都機能を、本報告書の対象として整理した。加えて首都機能が円滑に機能するために必要なライフライン等の機能も首都機能を支える機能として抽出している。
○初動段階:地震発生から3日以内
○応急復旧段階:1週間
○復旧段階:1ヶ月
○復興段階:1ヶ月以上
図表 地震発生後の各首都機能の必要性
初動 応急復旧 復旧 復興
立法(政治)機能
緊急時の機能
平常時の機能
行政機能
非常災害対策本部機能
各省庁の防災対応機能
金融・経済機能
外交機能
防衛機能
その他の日常業務の機能
司法機能
緊急時の機能
平常時の機能
注)◎は完全に機能する必要あり、○は部分的に機能する必要あり、-は機能することが望ましいが必要不可欠ではない機能を示す
対象とする首都機能並びにこれを支える機能
A 首都機能
○立法機能   :国会・国会運営を直接担当する関係機関
○行政機能   :内閣・中央省庁
B 首都機能を支える機能
○情報通信機能    :国独自の通信機能並びにNTTの回線網を対象とする
○ライフライン機能   :電気、ガス、水道を対象とする
○輸送機能       :国、地方自治体の輸送機能並びに主要交通を対象とする
1-2 大地震災害発生の危険性
 南関東地域において発生の切迫性が指摘されている地震として、南関東地域直下の地震(M7程度)が挙げられるが、関東大地震を引き起こした相模トラフ沿いの地震(M8程度)については、発生の可能性は切迫していないとされている。一方、首都機能の移転先候補地の中には東海地震や東南海地震など危険性の高い特定観測地域や第三種地震空白域に隣接したところもあり、一概に、日本の国土の中で安全な地域、危険な地域を区別することはできない。(「第三種地震空白域」とは、プレート内地震帯の中の低活動域をいう。兵庫県南部地震は、第三種地震空白域で発生した地震である。)
1-3 首都機能等の防災性の現状
 阪神・淡路大震災以降、東京における防災性は大きく向上し、災害対応力も格段に高まってきた。以下では、首都機能に焦点をあて、東京が大地震に被災した場合の災害対応力の現状をみていく。
(1)中枢機能 
 災害対応力の向上を図る企画・計画を作成する機関や災害発生時に意志決定を行う主な機関について、以下にまとめる。
1)緊急災害対策本部
 大規模災害が発生した場合には、非常災害対策本部が設置されるが、首都東京が大規模災害に被災した場合には、内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部が設置されると考えられる。設置場所は、官邸⇒中央合同庁舎5号館⇒防衛庁⇒立川広域防災基地の順に優先順位が定められている。未だ緊急災害対策本部が設置された例はない。
2)内閣官房
 阪神・淡路大震災以降、国の危機管理体制の重要性が深く認識されるようになった。内閣官房においては、危機管理を専門とする内閣官房危機管理監が平成10年に設置され、また、緊急事態発生時に最新情報を収集し内閣関係者に情報を伝達する内閣情報集約センターが平成8年に設置され、危機管理機能が強化された。
 内閣官房は、首相を直接に補佐する機能を担い、国政に関する基本方針の企画立案を行う機関である。災害時に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態への対処及び当該緊急事態の発生の防止に関するあらゆる事項を担う。ただし、国の防衛に関するものは除かれる。
緊急事態等に対する内閣官房の初動対処については、平成10年7月に「内閣官房初動対処マニュアル」が定められ、これにより国の危機管理体制が強化された。
3)内閣府
 平成13年に、旧国土庁防災局が内閣府に移動して内閣府防災担当が発足したことにより、国の防災セクションの権限が強化された。内閣府には、中央防災会議が設置され、国の災害対策を総合的、計画的に推進している。また、内閣府防災担当では、防災対策宿日直を行っており、24時間体制で災害情報の収集・連絡に対応している。
4)情報・通信体制
 国においては、災害時に公衆通信回線が途絶しても防災関係機関で被害状況に関する連絡がとれるように、中央防災無線をはじめとする無線ネットワークが充実されてきている。特に、大規模な首都直下型の地震によって中央防災無線網を支える庁舎等が損壊し、中央防災無線網そのものが使用不能になったケースを想定して、内閣府等の指定行政機関と都下の指定公共機関等との間に「首都直下型地震対応衛星通信回線」が整備されている。
(2)防災に関する計画等 
 国の防災に関する計画等には、中央防災会議が定める防災基本計画、それに基づいて指定行政機関が定める防災業務計画がある。特に、南関東地域においては、それら計画を受けて、「南関東地域直下の震災対策に関する大綱」、「南関東地域震災応急対策活動要領」などが定められている。
(3)官庁施設・職員参集から見た中央省庁等の防災性
1)官庁施設等の安全性
① 国会議事堂の安全性
 国会議事堂の耐震診断調査では、中央棟部分の6階部分と1階部分で局所的な損傷が予想されるものの3階建てである衆・参議院棟部分は安全とされている。また、議員会館や議員宿舎はPFIによる建替えが検討されている。
② 霞が関官庁施設の安全性
 A 新耐震基準と官庁施設の総合耐震計画基準
 新耐震基準は、建物の耐用年限中(50~100年)に1回程度遭遇するかもしれない程度の大地震動に対し人命の保護を図ることが目標とされているが、「官庁施設の総合耐震計画基準」は、人命を保護するだけでなく、建築物の使用や機能確保を図るという高度な目標が設定されている。「官庁施設の総合耐震計画基準」は官庁施設の建替えだけでなく、耐震改修にも適用される。
 B 中央官庁施設の現状
 霞が関の官庁施設では、新耐震基準制定以前の庁舎が半数程度を占めるが、その半数は、昨年設置された都市再生本部の都市再生プロジェクトで建替えが検討されているもの、または、耐震改修が予定されているものである。これについては、「官庁施設の総合耐震計画基準」に沿って計画されるため、十分な機能維持が図られることとなる。建替えや耐震改修の予定がない庁舎には以下があり、今後、早急な対応が望まれる。
図表 建替え・耐震改修の予定のない庁舎の規模
庁舎名 延床面積(㎡)
財務省 57,982
合同庁舎1号館(農水省等) 79,627
内閣府庁舎 21,625
経済産業省別館 59,741
郵政事業庁庁舎 51,626
合同庁舎4号館(内閣府等) 53,496
合計 324,097
出所)霞が関ガイドマップ(旧建設大臣官房官庁営繕部、1995.11)の情報をもとに作成
 C 建替え・耐震改修の実績と予定
 近年、霞が関の官庁施設は建替え・耐震補強ラッシュである。平成13年に合同庁舎2号館(総務省、国土交通省、警察庁)の建替えが完了し、総理大臣官邸は平成14年3月に完成した。また、合同庁舎7号館(文部科学省と会計検査院)のPFIによる建替えが都市再生プロジェクトに位置づけられており、一方、合同庁舎3号館、外務省本省は耐震改修工事を実施中である。
<総理大臣官邸(平成14年3月完成)>
 「新官邸の整備方針」の中で、「危機管理機能の強化」が新官邸の整備の必要性・緊急性の1つに挙げられており、首都直下等の大地震が発生しても、霞が関で国の機能を維持するための建替えであることを意味している。
 新官邸は、地上5階、地下1階建てで、地下1階には危機管理センターが設置される。危機管理センターには、事態が長期化したケースに対応すべく最大約30人分の仮眠室が設置されるほか、内閣危機管理監、内閣官房副長官補等の危機管理セクションの待機施設が設置され、大災害の際には官邸の全職員が2週間連続して官邸に寝泊りできる。また、新官邸では、平成15年に打ち上げられる情報収集衛星からの画像情報が常時入手でき、緊急時にはヘリコプターで官邸から被災地視察へ出向くこともできる。
③ 地域危険度から見た霞が関官庁施設街
 国会議事堂や中央省庁のある永田町・霞が関地区は、地区全体が東京都の広域避難場所に指定されており、また、地域危険度で見た場合でも、都区部の中で安全性が高い地区である。
2)官庁職員の安全性・非常参集の可能性の検証
① 地域危険度から見た国家公務員宿舎の分布
 国家公務員宿舎の多くは地域危険度の低い地区に立地しているため、都区部において大地震が発生した場合においても、国家公務員宿舎に対する影響は小さいと考えられる。
② 官庁職員の非常参集の可能性
 A 危機管理職員宿舎の整備状況
 現在、霞が関から徒歩30分圏域に危機管理職員宿舎約250戸の整備が進められており、災害発生直後の職員参集体制が確立されつつある。
 B 山手線内の国家公務員宿舎
 現在、山手線内には6,940戸の国家公務員宿舎が存在する。山手線内の地域は、都営地下鉄大江戸線の開通により、ほぼ全域が最寄鉄道駅から徒歩10分圏域となっている。山手線内の国家公務員宿舎に居住する職員が災害応急対策に従事することで、災害応急対策を円滑に行うことが期待できる。
(4)防災拠点の整備状況 
 立川広域防災基地は国の災害応急対策における拠点としての機能を担う防災拠点であるが、新たに、さいたま広域防災拠点が整備されたことで、首都圏の防災体制が充実している。さらに、東京湾においては、基幹的広域防災拠点の整備が検討されている。また、七都県市においても、埼玉県中央防災基地が平成12年度に供用開始したことなどにより、首都圏の広域的な防災性は確実に向上しつつある。七都県市での相互援助応援にとどまらず、国と七都県市を含めた連携体制を整備することで、首都機能の防災性がさらに向上することが期待される。
1)国の防災拠点
 国の広域防災拠点には、立川広域防災基地(内閣府)、さいたま広域防災拠点(国土交通省関東地方整備局)、横浜海上防災基地(海上保安庁)がある。このうち、国の災害応急対策における拠点としての機能を担うのは立川広域防災基地のみである。緊急災害対策本部の設置場所として、首相官邸、中央合同庁舎5号館、防衛庁が使用不能の場合には、本部は立川広域防災基地(災害対策本部予備施設)内に設置されることとなっている。
 また、首都圏広域防災拠点整備協議会において、東京都臨海部及び川崎市臨海部に基幹的広域防災拠点を整備することが決定された。合同現地本部や物資の備蓄倉庫、防災ボランティア・ネットワークの拠点、我が国の中枢が麻痺しないためのデータ・バックアップセンター等の整備が検討される。平成14年度中を目途に、首都圏全体の広域防災拠点の役割分担、ネットワーク化等を内容とする「首都圏広域防災拠点整備基本計画(仮称)」が決定され、南関東地域直下の地震対策に関する大網等、各種防災計画にも反映される見通しである。
2)七都県市の防災拠点
① 埼玉県中央防災基地
 埼玉県中央地域における防災活動の拠点であるとともに、大規模災害等の発生時には、県外からの救援物資等の集積仕分け拠点及びヘリコプターや車輌による人員・物資の輸送拠点として、県全域の支援活動を行う中核的な防災基地である。平成12年度に供用が開始されている。
② 千葉県中央防災センター・千葉県西部防災センター
 地震、風水害、火災等の大規模災害時における防災資機材等の円滑な供給を図るとともに、平常時における防災教育、啓発活動の拠点として、千葉県中央防災センターが昭和60年4月に、さらに千葉県西部防災センターが平成10年6月に開設した。
③ 東京都立川地域防災センター
 東京都立川地域防災センターは、国の広域防災拠点である立川広域防災基地に隣接して立地している。72時間連続運転が可能な自家発電設備や貯水槽の整備をはじめ、電算機室や無線室は免震床とするなど、信頼の高い施設となっている。
④ 神奈川県総合防災センター
 神奈川県総合防災センターは、県内を一体とした広域的・総合的な災害応急対策活動を行う災害対策本部直轄の中央基地として、各種防災資機材や物資を備蓄するとともに、応急活動要員の集結・待機・出動、応急物資の受入・保管・配分、搬送車両の集結拠点となる。
⑤ 千葉市蘇我臨海地区防災公園(計画)等
 千葉市の蘇我臨海地区においては、防災公園の整備が計画されており、平成18年度には一部供用を開始する予定である。また、近接して浮体式防災基地(ミニフロート)の整備が検討されている。さらに千葉県では、防災公園と連携して、スポレク健康スクエア(仮称)用地及び千葉港中央ふ頭地区に広域防災拠点の整備を検討している。
⑥ 横浜市民防災センター
 横浜市民防災センターは、特殊災害に対応する消防力の強化を図るとともに、平常時には、市民防災教育の場として、知識の啓発・訓練等を行うほか、大地震等の災害時には、隣接公園と一体化した一時避難場所として、救護・給食・給水及び備蓄物資の放出等、救護活動の拠点となる。
(5)防災関係機関の対策(首都機能の維持と密接に関係する機関)
1)消防機関
 首都圏の地方自治体は、災害時に各消防機関が相互に円滑に協力を得られるよう、消防相互応援協定を締結している。首都圏の優秀な消防機関とそれら相互に確立された応援体制は、災害時における首都機能の維持にも役立つものである。中でも、東京都の消防は、他の道府県と異なり、東京消防庁が東京のほぼ全域を管轄しているため、統一された指揮系統によりスムーズなオペレーションが可能である。
2)警視庁
 警視庁管内に大震災が発生した場合、警備本部が設置され指揮体制が確立する。警備要員は、東京都(島部を除く)に震度5強以上の地震が発生した場合には、自所属に参集することになっている。
3)自衛隊
 平成7年に防衛庁防災業務計画が修正され、自衛隊が都道府県知事等からの要請を待たずに自主派遣を行う場合の基準が明記され、機動的な災害派遣体制が整備された。
 また、自衛隊は、地震防災対策強化地域に指定されている東海地域での大規模地震に備え「東海地震対処計画」、南関東地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に大規模な震災が発生した場合に備え「南関東地域震災災害派遣計画」を準備している。
(6)ライフラインの対策(首都機能の維持と密接に関係するライフライン)
1) 水道
 東京都の浄水場、給水所等の施設では補強工事が随時進んでおり、配水管も耐震性の高い管への取替えが概ね終了している。さらに、部分的に断水しても上水供給が断たれないように送水幹線はループ状に整備されている。また、震災時の緊急工事用資材は4箇所で備蓄されているほか、災害時の非常配備態勢が整備されている。
2) ガス
 工場施設や導管は優れた耐震性を有しており、高圧導管や中圧導管には優れた溶接接合鋼管が使用され、ループ状に整備されているため、遮断エリアを限定した供給継続が可能である。また、緊急用資材や作業員用食糧は4箇所に備蓄されており、マニュアルよって非常態勢が決められている。
3) 電力
 変電設備、発電設備等の電力供給施設は優れた耐震性を有しており、送電線、変電設備は多重化され、さらに他の電力会社との連携体制も確立されている。また、応急復旧用資材は各資材センターに確保され、輸送会社と資材の運搬についての契約が結ばれているなど、復旧体制も十分に配慮されている。
4) 通信
 震度7の地震においても、建物や鉄塔は倒壊せず、とう道・ケーブルは機能維持できる耐震性を有している。さらに霞が関周辺では地下共同溝が整備され、耐震性が確保されている。また、伝送路の多ルート化による自動切換えや非常用交換機、移動電源車等が準備されており、大地震発生後にも早期復旧が可能な体制が整備されている。
(7) 交通インフラの対策(首都機能の維持と密接に関係する交通インフラ)
1)鉄道
 各主要交通機関は、阪神・淡路大震災以降、旧運輸省通達等に基づいて、施設構造物の耐震診断を実施し、概ねの耐震補強を完了している。設備面でも変電設備の補強や非常電源設備の整備、マニュアル策定による非常態勢の整備等が進んでおり、防災性は確実に向上している。
2)道路
 各道路管理者は、阪神・淡路大震災以降、旧建設省通達等に基づいて、地質や構造などの状況に応じ、阪神・淡路大地震級の地震に対しても、落橋や倒壊を生じないよう、安全性を強化する対策の実施を進めている。道路構造物の耐震対策に加え、地震発生時の情報収集・伝達システムの構築、道路構造物や災害時に情報収集・伝達等に必要な情報通信施設等の常時点検など、総合的な安全対策が進んでおり、防災性は確実に向上している。
<緊急道路啓開>
 七都県市では、防災拠点や都市間を結ぶ主要な道路等を緊急交通路、緊急輸送路等として選定している。震災時には、各道路管理者が必要な路線から優先的に、路上障害物の除去及び陥没や亀裂等の応急復旧工事等を行い、車両通行帯を確保することとしている。緊急道路啓開作業は、あらかじめ各道路管理者が協定を締結している団体・業者等が実施することとなっている。また、被害の規模や状況によって、七都県市は自衛隊に支援を要請することが可能となっている。
1-4 首都圏の防災面の優位性
防災性強化のための費用対効果の優位性
○防災性を高めつつある内閣・中央省庁
 阪神・淡路大震災以降、霞が関に立地する中央省庁をはじめ、国の防災性は急速に改善されつつある。まず、総理大臣官邸や中央省庁の建物の耐震性が向上しつつある点が挙げられる。新耐震基準より厳しい「官庁施設の総合耐震計画基準」を適用した新たな施設整備並びに耐震補強が進みつつあり、想定される南関東地域直下の地震に対しては、災害発生時における首都機能の活動に重大な支障はないものと考えられる。
 また、大地震等が発生した場合でも、霞が関の徒歩圏内に危機管理職員宿舎の整備が進められるなど、阪神・淡路大震災時と比べても、初動体制の改善が図られつつある。その他、山手線内には約7,000戸の国家公務員宿舎があり、これらの多くは、災害危険度の低い場所に立地している。これらに居住する職員は距離的に見て徒歩による参集が可能であり、初動段階における最低限の首都機能維持に必要な人員は確保しうると考えられる。
 さらに、霞が関地区に関しては、一部のライフラインを管理する企業や国自身が、霞が関地区周辺について、災害発生時においても、その機能が停止しないための投資を行っている。このため、霞が関地区は、東京にあっても、ライフラインの安定性について格段の充実が図られている。これらの状況を勘案すると、既存の施設を最大限有効活用し、現在の霞が関の防災性を高める方が費用対効果の面においても優れていると考えられる。
○防災性を高める上で有効な民間企業の集積
 近年、首都圏では、官庁施設等の建替えなどにおいて、民間企業の活力を利用したPFIの導入等が検討されている。これによって、民間資金を活用しつつ、一部の床あるいは施設については、民間利用を図ることにより、さらに建設費の縮減を図ることも可能となる。このことは、民間資本を活用して首都機能の防災性の向上を図っていくことが可能であることを示している。こうした手法の採用は、建設費を投資した場合でも、採算性が確保できる条件が首都圏には備わっていることによる。
 多くの民間企業が集積した首都圏では、国と民間企業が連携して、災害時においても首都機能等を維持することが可能であり、こうした観点からも、首都圏に首都機能が立地することのメリットは大きい。部分的にも民間活力を導入できる首都圏に首都機能が立地していれば、その防災性を向上させる上でも、費用対効果は極めて高くなる。
リダンダンシィ(代替性)の確保の観点からの優位性
○代替施設が充実した首都圏
 首都圏では、大地震が発生して仮に霞が関の機能の一部が麻痺するような事態が発生しても、これを代替しうる可能性を有した施設が周辺に多く立地している。例えば、総理大臣官邸が使用できない場合には、霞が関の中央合同庁舎5号館や防衛庁の市ヶ谷駐屯地、立川防災基地などを使用することとされており、代替する施設はあらかじめ定められている。
 また、国会の代替施設として活用できる大規模な会議用スペースについても、横浜市、千葉市、さいたま市等、比較的近い範囲において複数確保することができるため、あらかじめこうした施設を活用できる体制が確立されていれば、早期に、かつ円滑に機能の回復は可能となる。人員の面でも関東支分部局がさいたま市に立地していることから、同時被災を逃れつつ、霞が関の応援態勢並びに代替業務の遂行等が行いやすい環境が整っている。
○複数ルートを確保できる充実したライフライン機能と輸送機能
 水道、電気、電話などのライフラインについては、広域的な観点から、複数のルートによる供給体制が整備されている。このため、部分的に施設の機能停止があった場合でも、別のルートを利用した供給体制が既に確立されている。一方、新都市が建設された場合、都市内で、こうした体制整備を行うことは十分に可能であるが、広域的に複数ルートを確保した供給体制を整備することとなれば、その施設整備に費やす資金によって、現行の整備費を大幅に超過することも予想される。このような施設整備を行えば、50万人規模の都市では採算性を確保することは難しく、整備主体の投資負担は莫大なものとなることが考えられる。
 人員や物資の運搬に関しても、首都圏では多様なルートを選択することができる。霞が関の中央省庁職員の災害発生時における移動手段については、既に初動段階における人員の確保がほぼ可能であることをみてきた。また、東京近郊に居住する職員についても、首都圏の鉄道網は放射状に多くの路線が確保されており、JR武蔵野線等、環状方向の路線も整備されつつあり、これらの路線の選択によって、初動段階の間には、霞が関に参集することは十分に可能と考えられる。
 さらに、救援物資等の搬入についても、首都圏には大規模な港湾施設が点在しており、その周辺においても常磐那珂港等が利用可能になっている。物資運搬面でも、こうした港湾機能と充実した道路網が、リダンダンシィ確保の点からも機能すると十分考えられる。
 これに対して、首都機能の移転先候補地の中には、地形的制約が厳しく、多様なルートを確保することは困難であるところもあり、大規模な地震が発生すれば、土砂崩れなどによって交通網が寸断される事態は十分に起こりうる。このような事態が発生した場合には、仮に新都市が全く被害を受けなかったとしても、長期間にわたり孤立化する可能性も大いに想定される。
 首都圏では、大地震が発生して、長期間使用不能となるライフラインや輸送機関があったとしても、これの代替施設が既に幾重にも確保されており、リダンダンシィの観点から首都圏は優位であると言える。
強力な防災性を保有する地方自治体の存在からの優位性
 首都圏を構成する地方自治体の幾つかは、高い行政能力を有するなど戦後の地方自治をリードしてきた存在であり、その組織規模も大きく、首都機能や被災地の地方自治体に対する支援余力が高いレベルで確保できる。これは、首都圏に首都機能が立地していることの大きな優位性の1つと捉えることができる。
 首都圏の地方自治体は、災害時に各消防機関が相互に円滑に協力を得られるよう、消防相互応援協定を締結しており、火災等の災害発生の際には、相互の高い消防力を活用して、災害による被害を最小限度に防止することが可能である。警視庁についても、長年、首都東京における警備体制を整えてきた経験から、首都機能を維持する体制が既に十分整っていることや、災害時の地域社会の安定に寄与する点においても大きな貢献が期待できる。
1-5 首都圏におけるさらなる防災性強化に向けて
 首都圏が今後も首都機能を担っていく上では、前節で示した優位性を保ちつつ、万全を期して、さらなる防災性強化に向けた取組みを推進していくことが重要である。ここでは、首都機能を維持していく観点から、首都圏の防災性をさらに高めていくための課題を整理していく。
(1)立法機能の抱える課題
 阪神・淡路大震災に際し、国会では、様々な特別立法を措置した経験から、仮に首都東京が、大地震に見舞われた場合には、より多くの立法措置を講じる必要性が考えられる。しかしながら、こうした立法措置は、緊急性を有するものではあるが、復興に向けた動きを支援するために講じられる措置であるため、基本的には被害状況を把握した上での活動である。このため、その活動は概ね応急復旧段階から必要性が高まってくるものと考えられる。
 国会議事堂は、既に建設されてから60年以上が経過しており、衆参両院がある両翼部分は、構造的な耐力を有しており、一定の安全性が耐震診断により立証されている。しかしながら、予想を超える海溝型の大規模地震に対しては、必ずしも100%被災を免れられるとは言えない状況である。
 以上のことから、国会議事堂の被災に対する方策としては代替施設が確保され、国会が開催される準備が初動段階に確立する体制を検討することが課題として挙げられる。
(2)行政機能の抱える課題
 行政機能に関しては、霞が関の中央合同庁舎の建替えや耐震補強工事などが進んでおり、そのすべてが被災する可能性を考慮する必要はない。今後は、十分な耐震性が確保されていない庁舎の早急な建替え等を進めることが当面の課題である。
 夜間等に大地震が発生した場合でも、自宅にいる職員は、リダンダンシィが確保された首都圏では、複数のルートをたどりながら霞が関に参集する可能性が比較的高いと考えることはできる。また、阪神・淡路大震災以降、地下鉄の耐震補強工事も実施され、地下構造物としての耐震性確保がなされているため、大地震発生時に保守点検による一時的な運休はあるものの、長期的に機能が停止する事態は考えにくい。しかし、さらなる万全を期すためには、さまざまな事態を想定し、事前に方策を検討しておく必要がある。
 一般に行政機関の情報化は遅れていると言われていたが、中央省庁においても、行政情報の電子データ化等が急速に進んでおり、各省庁で電子情報の管理がなされている。災害発生時においては、復旧段階までは平常業務のウェイトは必ずしも高くないと考えられるが、長期間にわたる業務の停滞は許されない。実際のところ、霞が関の官庁施設の多くは耐震性が確保されつつあるため、こうした情報ストック施設が直接的に被災することは考えられないが、万が一を想定し、首都圏内において、地震による影響が比較的少ない場所に、行政情報を保全・管理する施設を整備する必要がある。
(3)国と地方自治体の連携に係わる課題
 従来、大災害の発生に対しては、国が指揮を執りつつ、地方自治体等の活動を支援してきた。つまり、大規模な災害に対する復旧活動においては、国と地方自治体が連携しながら、これに取り組む体制を構築してきた。しかしながら、東京都心部が被災した場合には、国と当該地域の地方自治体である東京都が同時被災となるため、十分な連携のもとに復旧活動を実施できない可能性がある。首都機能の全国的な重要性を鑑みれば、国の機能低下を最小限に留めるためには、東京都が自ら防災体制を高度化することは重要であるが、周辺自治体からの協力体制を従前より構築しておくことも重要になってくる。このため、特に東京都にあっては、日常的に情報交換等を進めながら、災害時における指揮系統の確立や役割分担を図っていくことが望まれる。こうした取組みは、七都県市を含む広域なエリアで構築し、大地震等の災害に対応した体制を確立することが課題といえる。
2.首都機能のバックアップ方策の検討
<首都機能のバックアップ方策の検討にあたっての基本的な考え方>
 災害発生時においては、本来、地方自治体は住民の生命・財産を第一に保護するという責務を有している。しかし、国と七都県市が同時被災する大規模地震が発生した場合に、七都県市のうち、余力のあるいずれかの自治体が、本来の責務の範囲を超えて国の機能をバックアップすることは、結果として首都圏全体の災害復旧を促進させることにつながると考えられる。
 南関東地域において発生の切迫性が指摘されている南関東地域直下の地震(M7)を超えるような大規模な地震に対しても、万全を期して国と七都県市がそれぞれの役割の範囲において、首都機能のバックアップ方策をあらかじめ検討しておくことは、極めて重要と考える。本章では、以上のような前提条件のもとに、国において実施すべき首都機能の防災性向上の方策及び首都機能バックアップ方策について検討を行う。
<首都機能のバックアップ方策の構成>
2-1 国が実施すべき首都機能の防災性向上の方策
(1)国の防災性の向上
○建設年代の古い官庁施設の早期建替え
○災害時における行政機関移転先の有効活用
○情報バックアップセンターの整備
(2)中央省庁職員等の参集体制の確立
○山手線内の国家公務員宿舎の建替えによる災害応急対策要員の確保
○中央省庁職員等の移動手段の確保の検討
2-2 首都機能のバックアップ方策
(1)立法機能のバックアップ
○国会議事堂の代替施設の確保の検討
○国会審議・運営に係る人員の移動手段の確保の検討
(2)行政機能のバックアップ
○建替え・耐震補強計画のない官庁施設の代替施設の確保の検討
○霞が関と臨時代替施設を結ぶ輸送路の確保
○中央省庁への総合的な支援の検討
(3)国と七都県市の一体的な首都機能復旧体制の確立
○首都圏の地下鉄網を活用した防災拠点ネットワークの確立
○国と七都県市の防災情報の共有化
○国・七都県市共通の首都機能バックアップマニュアルの作成と首都圏の防災拠点を活用した首都機能復旧体制の確立
2-3 七都県市の首都機能バックアップの具体的な取組み(案)
2-1 国が実施すべき首都機能の防災性向上の方策
(1)国の防災性向上
新耐震基準制定以前に建設された官庁施設は、PFI等を活用して早期に建て替える。
 内閣危機管理監や旧安全保障・危機管理室等の危機管理セクションや内閣府の経済財政政策セクションといった国の中枢機能の入居する庁舎のうち、防災性が必ずしも十分とは言えない建物については、民間の事業機会を創出できるPFIを導入して早期に官庁施設の建替えを進め、霞が関の耐震性を確保し、災害時における日本の政治・経済の安定に努めることが望まれる。
さいたま新都心等の行政機関移転先において、災害時に有効に活用できる体制を整備する。
 昭和63年に施行された「多極分散型国土形成促進法」に基づく行政機関移転先の施設は、総合すると相当な床面積となり、また、新規に施設が整備されたため、霞が関と比較してスペースに余裕があると考えられる。
 現在、さいたま新都心をはじめとする行政機関移転先が、霞が関が被災した場合に、どのように機能するかは明らかにされていない。今後、霞が関が被災した場合に、被災していない行政機関移転先をどのように機能させるのか、霞が関職員をどの程度収容し執務スペースを提供するのかなどを検討し、災害時に有効に活用できる体制を整備しておくことが、首都機能を維持する上で必要である。
各省庁で保有する情報を随時バックアップできる施設として情報バックアップセンターを整備し、霞が関の日常業務等を国の地方支分部局等で代替する場合でも、情報が引き出せる体制を整備する。
①中央省庁の保有する情報のバックアップの必要性
 中央省庁のデータ管理は、サーバーを局や部・課単位で設置して行っており、局や省庁をまたがった情報の一括管理は行っていない。社会保険庁や旧郵政省の個人情報ファイルは、災害発生時の対応が確立されているが、個人情報ファイル以外のデータについては、個々の必要に応じたバックアップ以外に措置はとられていないものと考えられる。
 現在、霞が関の官庁施設は建替えが進み、被災により、コンピューターが使用不能となる事態は考えにくいが、依然耐震性を確保できていない施設があることや、日常業務を地方支分部局に一部移管することで、業務の停滞を回避する場合があることを想定すれば、霞が関と同時被災をしない地域において、情報バックアップセンターを整備する必要性は高い。
②情報バックアップセンターの規模と求められる立地条件
 情報バックアップセンターの施設規模は、延床面積で約7,000㎡程度と試算した。立地としては、霞が関との同時被災の可能性が低い地域で、地盤が強固な場所であることなどが必要条件となる。また、首都圏基本計画での位置づけや国の行政機関の移転に配慮した立地選定が望ましい。さらに施設用地の取得という面では、都市基盤整備公団開発のニュータウン等で公有地が多く存在する地区が考えられる。
(2)中央省庁職員等の参集体制の確立
山の手線内の国家公務員宿舎をPFI等により建て替え、災害応急対策要員を確保する。
 都心3区の危機管理職員宿舎約250戸に緊急参集チームのメンバー等が入居することにより、被害の1次情報の収集・連絡体制は確立されると考えられるが、その後の災害応急対策等の業務を視野に入れ、山手線内の国家公務員宿舎の意義をある程度考慮することが必要である。
 今後、都心3区については国有地の有効活用という側面から、危機管理職員宿舎以外の宿舎を廃止することはやむを得ないと考えるが、都心3区を除く山手線内については、災害応急対策を円滑に行うためにも、一定規模以上の敷地で、建設年代が新耐震基準以前の住宅から優先的に、そして、宿舎が同時被災しないように分布に配慮しながら建替えを進め、災害応急対策に関わる人員が参集しやすい体制を整備するべきである。
災害時に民間ヘリコプターや公営バスを必要に応じて活用できるような協力体制を確立する。
 現在、国による地方自治体や民間のヘリコプターの活用は定められていないが、必要に応じて七都県市や民間ヘリコプターを利用できるような協力体制を事前に築くとともに、国・地方自治体・民間の航空機情報(機数、仕様、メンテナンス状況など)を一元的に管理して、緊急時に利用できる環境を整えるべきである。さらに、非常参集だけでなく、被害調査、救急搬送、物資輸送等にも利用できるような検討を進める必要がある。
 また、国家公務員宿舎を巡回して災害応急対策要員が霞が関へ参集できるように公営バスの緊急利用も検討する必要がある。
2-2 首都機能のバックアップ方策
(1)立法機能のバックアップ
 国会議事堂が被災して立法機能が機能不全に陥った場合、災害対策基本法第109条により、一定の事項に関する政令については閣議決定で制定できるが、それ以外の政令の制定については、閣議決定で処理できないと考えられる。国は、首都機能が被災するような大地震も視野に入れ、国際的な支援の受入れや災害時に必要となることが予想される法や政令の制定なども、災害対策基本法第109条に則って閣議決定で対応できるように法整備を検討すべきである。
 初動段階(地震発生~3日以内)では、社会状況が混乱しており、平常の審議や立案等が難しいため、総理大臣や内閣の閣議了承で可能な限り対処することが想定される。しかし、応急復旧段階(災害発生後3日~1週間)では、社会情勢は混乱しつつも、総議員1/4以上の出席が必要な臨時国会の開催は可能と考えられる。この時点では、国会を機能させ、速やかに災害関連の法案を成立させることが求められる。このため、仮に国会議事堂が利用できなくなった場合でも、応急復旧段階では立法機能が回復している必要がある。
国会議事堂での国会開催が不可能な場合における、臨時代替施設の確保を検討していく。
 国会議事堂での国会開催が不可能な場合には、東京国際フォーラム、東京ビッグサイト、パシフィコ横浜、幕張メッセ、大宮ソニックシティ、さいたまスーパーアリーナのうち、各自治体が災害復旧等のため優先して使用する必要がない場合、かつ、施設自体が被害を免れ使用可能な場合に、上記の施設を臨時代替施設として活用できるよう、国へ協力することを検討する。
公営バスの優先運行や民間ヘリコプターの利用の斡旋を行うなどして、国会審議・運営に係る人員の移動手段の確保を検討していく。
臨時代替施設のうち、パシフィコ横浜、幕張メッセ、さいたまスーパーアリーナ、大宮ソニックシティは東京方面から高架の鉄道路線で結ばれている部分もあるため、公共交通手段が使用できないケースも考えられる。このような場合に備え、啓開された緊急交通路等を利用した公営バスの優先運行や、民間ヘリコプターの利用協力を得ることなど、国会審議・運営に係る人員の移動支援を検討していく。また、臨時代替施設やその周辺のホテルの臨時優先使用について、事前調整を検討していく。
(2)行政機能のバックアップ
1)霞が関官庁街のバックアップ
現在、建替え・耐震補強の計画のない庁舎が被災した場合における、臨時代替施設の確保を検討していく。
 現状で耐震性が十分ではない施設については、大地震へのバックアップ方策を検討する必要がある。これらの施設に対しては、施設の耐震性の向上を国へ提案する一方で、七都県市は、施設規模を踏まえた代替施設の確保と人や物資の輸送体制等を確保するなど、霞が関に対する総合的な支援体制の整備を検討する。臨時代替施設としては、東京国際フォーラム、東京ビッグサイト、パシフィコ横浜、幕張メッセ、大宮ソニックシティ、さいたまスーパーアリーナを想定している。また、さいたま新都心も職員受け入れ先として機能させ、霞が関の業務の一部が遂行できるように体制を整えることが必要である。
充実した首都圏の高速道路網等を活用して、霞が関と臨時代替施設の輸送路を確保し、臨時代替施設の機能確保を図る。
 七都県市は相互に、首都高速道路をはじめとする高速道路で結ばれており、これらは阪神・淡路大震災以降、平成12年度までに耐震補強工事が概ね完了していることから、震災発生後は各都市間を連絡する重要な輸送路として期待されている。
 中央省庁のある霞が関の出入口は、高速道路網の中心である高速都心環状線に位置し、立法機能や行政機能の臨時代替施設とは複数の高速ルートでネットワークされている。災害発生時には、多ルート化された高速道路網によって、霞が関との人員・物資の往来が可能となる。
 七都県市では、緊急交通路や緊急輸送路等を選定し、震災時には必要な路線から優先的に、車両通行帯を確保することを定めている。これには霞が関と臨時代替施設を結ぶ高速道路も含まれている。災害発生時に臨時代替施設を機能させるためには、これら路線を早期に啓開して人員・物資の輸送を行い、首都機能の復旧体制を確立していくことが必要となる。今後、国、七都県市、首都高速道路公団等の関係機関の協力のもと、啓開作業体制の強化を図っていく。
輸送支援、人的支援、資材提供など、中央省庁への総合的な支援の検討を行う。
 現在、建替え・耐震補強のない庁舎が、震度7以上の地震により被災するケースを想定し、中央省庁への総合支援を検討する。検討フレームは以下のとおりである。
○災害時の設定
・業務時間内の場合
・業務時間外の場合
○時間のターム
・初動段階:災害発生3日以内
・応急復旧段階:4日~7日以内
・復旧段階:8日~1ヶ月
○地域の設定
・霞が関
・霞が関以外
○庁舎の耐震性
・新耐震以前に建設され、今後の建替え計画等のない庁舎に入居している省庁
(内閣、内閣府、財務省、農水省、経済産業省の一部、郵政事業庁)
=>庁舎が使用不能となり、初動段階において他庁舎への移動が必要
・新耐震以後に建設された庁舎及び建替え計画等のある庁舎に入居している省庁
=>庁舎は使用可能であり、初動段階において他庁舎への移動が不要
○業務に従事できる人員
・人員の滅失や家族等の救済活動を考慮し、復旧段階までに回復する人員を全体の9割と見込む。
(3)国と七都県市の一体的な首都機能復旧体制の確立
首都圏の地下鉄網を活用した防災拠点ネットワークを確立する。
首都圏の鉄道網は、国や七都県市の防災拠点を結ぶように高密度に首都圏全体に張り巡らされており、地震発生時に一部が運行不能に陥った場合でも、他の代替ルートを活用して物資の輸送や人員の移動を行うことが可能である。とりわけ世界でも例がないほど発達した首都圏の地下鉄網は、平成12年度までに概ね耐震補強工事を完了しており、地震発生時には、物資、人員の輸送に加え、地下鉄に張り巡らされた光ファイバー網を非常時の情報通信ネットワークとして活用することもできる。
一方、首都機能のある霞が関周辺には、霞ヶ関、永田町、国会議事堂前、桜田門等の多く駅が存在し、防災拠点と地下鉄網で結ばれている。これまで、防災拠点の整備は、省庁ごと、自治体ごとに整備が進められてきており、防災拠点ごとのネットワークは強く意識されていないが、今後の中央省庁、自治体の防災拠点の整備、防災体制の再編にあたっては、地震に強い地下鉄網等を活用し、ネットワーク化することで、広域的な防災体制の確立のみならず、首都機能のバックアップ体制の確立も可能である。
国と七都県市の防災情報ネットワークの接続により、相互に早期・確実な防災情報を共有できる首都機能の復旧体制を確立する。
 国は阪神・淡路大震災以降、内閣情報集約センターの設置など、情報収集体制を強化する取組みを進めてきた。現在、試験的に、首相官邸と一部の地方自治体で災害情報を共有する取組みを進めている。また、国土交通省関東地方整備局は、光ファイバー網、無線網、情報ハブ機能工事事務所等の公共情報通信インフラを活用した防災情報バックボーンの整備に取り組んでいる。
 一方、七都県市においては、大規模災害が発生した場合に、自治体が都県の行政区域を越えて広域的に連携し、災害情報を総合的に収集・提供できるような情報ネットワークの構築を検討していく方向である。
 中央防災無線等の防災情報ネットワークが充実してきたことで、国と地方自治体の防災情報の連絡体制は確立されつつあるが、依然としてシステムが統一されていないため、リアルタイムで防災情報を共有化されるまでには到っていない。国と地方自治体の防災情報の共有は、被害状況を国が早期に確実に把握し、被災地に対して適切な措置をとることが主な目的であるが、首都機能の立地する東京、首都圏においては、国と地方自治体が相互に協力しながら、首都機能を復旧させていくために必要不可欠なものであり、その意義は大きい。通常時から情報バックアップセンターに国の情報をストックし、災害時に臨時代替施設等でその情報を引き出しつつ、国と七都県市の防災情報をリアルタイムで共有することで、早期の首都機能の復旧、全国の政治・経済の安定化を図ることが望まれる。
国・七都県市共通の首都機能バックアップマニュアルを作成し、首都圏の防災拠点を活用した首都機能復旧体制を確立する。
 首都直下型の大規模地震に対する対応をマニュアル化したものとしては、「首都直下型等大規模地震発生時における内閣の初動体制について」(平成13年1月6日施行)があり、これには、各閣僚の参集場所、参集方法、情報伝達方法、閣議等の開催について定められているが、これ以外に、首都機能自身が被災するケースを想定したマニュアルは存在しない。
 阪神淡路大地震以後、内閣府防災担当の設置等、国の危機管理体制は着実に強化されてきたが、首都直下型地震が発生した場合には、指揮系統、情報伝達等が相当に乱れることが予想される。首都機能の被災を前提に、国と七都県市共通のバックアップマニュアルを作成し、災害時に国と七都県市が連携して、首都機能の復旧、広域的な防災活動を実施できるように備えておくべきである。
 緊急時には国の防災拠点だけでなく、七都県市の防災拠点、臨時代替施設も活用しながら、どのように国家中枢機能を維持し、首都機能を復旧させていくのかを首都機能バックアップマニュアルに定めておくことは、極めて重要と考えられる。
2-3 七都県市の首都機能バックアップの具体的な取組み(案)
 以上の検討結果の踏まえ、各都県市より提案された具体的な取組み(案)は、別表のとおりである。今後、国はこうした七都県市による首都機能バックアップ方策の提案を受け、七都県市との連携等により、その実現化を図っていくべきと考える。
図表 各都県市の首都機能バックアップの具体的な取組み(案)
各都県市から提案のあった内容 前提条件
埼玉県 ○ 立法機能、行政機能の代替施設としての「大宮ソニックシティ」「さいたまスーパーアリーナ」の活用
○ 中央省庁への緊急物資集積場所(支援物資の集積、仕分け、備蓄)としての「埼玉スタジアム2002」の活用
○ 国会の代替施設(大宮ソニックシティ等)と中央省庁機関との人員の運搬、連絡調整のための民間ヘリコプター確保の斡旋
○埼玉県が立法・行政の代替機能を講じることができる状況にある場合
千葉県 ○ 立法機能、行政機能の代替施設としての日本コンベンションセンター(幕張メッセ)の活用
○千葉県中央、西部防災センターの使用 
○ 陸路及び海上輸送による支援物資の集積・仕分け・配送及び備蓄拠点としてのスポレク健康スクエア(仮称)用地(市原市)及び千葉港中央ふ頭地区などの活用
○空路による海外からの救援物資の受け入れ、備蓄基地としての成田空港地区の活用
○注1
○注2

⇒注3


東京都 ○ 国会の代替開催施設としての「東京ビッグサイト」、「東京国際フォーラム」の活用
○ 災害発生時における地下鉄の防災ネットワーク、輸送手段としての活用(都営地下鉄4路線)
○ 国会代替施設⇔霞が関、霞が関⇔官舎、霞が関⇔六県市間の連絡バスの運行
○ 民間ヘリコプターの確保の斡旋
○ 都内における情報バックアップセンターの建設候補用地の斡旋(都・都市基盤整備公団用地)
○ 注2
○ 施設自体が被害を逃れ、使用可能な場合
○都民の災害対応を優先させる必要のない場合

⇒売却条件等は今後の検討事項
神奈川県 ○ 神奈川県総合防災センター(厚木)の使用の検討
○ 川崎市臨海部における基幹的広域防災拠点の活用の検討
○注1
⇒注3
横浜市 ○ 立法機能、行政機能の代替施設としての「パシフィコ横浜」の活用
○ 近隣の宿泊施設の活用
○ 人員・物資輸送拠点としての横浜港の活用
○ みなとみらい21地区周辺のヘリポートの活用(要人輸送他)
○注1
○注2


川崎市 ○緊急物資等の輸送、ストック、海上輸送の拠点としての川崎港の活用(東扇島、千鳥町)
○基幹的広域防災拠点の活用(浮島、東扇島)
○注1

⇒注3
千葉市 ○ 陸路及び海上運搬による救援物資の受け入れ、備蓄、配送拠点としての蘇我臨海地区における防災公園などの活用
○人員・物資搬送拠点としての千葉市消防局ヘリポートの緊急使用
⇒注3

○注1
注1) 当該県市内に被害のない、または軽微な状況で、当該県市の住民の災害対応を優先させる必要のない場合
注2) 施設管理者との使用条件の協議等は今後の検討事項である。
注3) 都市再生本部の動向等を踏まえ、今後引き続き調整予定