田根 剛の未来ビジョン

2050年の東京
『TOKYOアイランド』

2050年の東京『TOKYOアイランド』

成長から発想へ

2050年の東京を「成長」から「発想」の時代にしたいと思いました。
これまで日本は、成長を目指せば良かったのです。近代化を勤勉に受け入れ、 人口を増やし、経済は伸び、古いものを捨てては新しいものを貪り、働いて働いて働き続ければ、明るい未来がやって来ると信じていました。しかし、気がつけば、いつの間にか成長は止まっていたのです。そこで私は、未来ビジョン懇談会で、これからの 未来を「予想」するよりも、斬新なアイデアで未来を「発想」して次の時代を切り開く、そんな未来の東京を探りたいと思いました。

TOKYO JUNGLE

以前から気になっていたのですが、東京とジャングルは似ているのです。コンクリートに囲まれた過密な環境ながら、生活が営まれる足元はいつも賑わっていますが、たくさんの規制で縛られています。そこで、管理社会ではなく寛容なジャングルのような生き生きとした東京の未来があればと思っています。それぞれの地域がそれぞれのアイデアで未来の環境を作る。そんなジャングルのような多様性のある街が、未来の東京ではないかと思いました。

TOKYOアイランド

そのような発想から東京を見てみます。東京は23区・26市・5町・8村の62の自治体でつくられていますが、東京を大きなひとつの都市として考えるよりも、こうしたたくさんの小さな「島」からなるTOKYOアイランドという視点から考えます。東京の62の区市町村を、それぞれの62のミクロな島に分解してしまうという発想です。大きな東京をたくさんの小さな「島」に例えるのは、それぞれの地域環境をガラパゴス化(=特異化)する仕組みです。これまで国や都が統一的ルールという「大きなインフラ」で都市開発や都市整備をしてきたシステムに対し、TOKYOアイランドでは「島のプログラム」によりそれぞれの未来のアイデアを実行でき、環境や条例をクリエイティブに創作できるというシステムです。地域が独自の環境に対して、特徴を踏まえた特例や特権を得て、各地域のアイデアのもと、自らの地域の未来をつくる、それが TOKYOアイランド計画です。

そして未来のTOKYOアイランドでは、地域で様々な特色が出来上がります。地域の「色」を出すことが、自分たちが暮らす地域のコンセプトになるのです。コンセプトがあると地域の環境は変わります。各々の地域が独自の新しい環境をつくり、その新しい環境が未来の情報文化となります。これからは情報と環境の時代です。環境が情報をつくり、情報が環境をつくる、それがTOKYOアイランド計画です。

2050年の東京

TOKYOアイランド計画を実際の街で行ったらどうなるか、2050年の東から西までの東京の未来像を発想してみました。


【銀座】

19世紀末に文明開化の象徴としてロンドンのリージェント・ストリートに倣い、銀座の目抜き通りは全国の商店街の代名詞ともなりました。しかし繰り返される開発によって、いつの間にか銀座らしさが失われつつありました。そこで「レトロモダン」をコンセプトに銀座の建物を高層化し高さを統一し、ビジュアル・ポリューション(視覚的公害)である看板や電柱・電線を廃止、銀座の目抜き通りは365日午前10時から午後6時までを歩行者天国とすることで、ハイカラでモダンな銀座が蘇っています。

【西新宿】

90年代に高層のオフィスビルが建ち並びながらも、夜間はひと気のない空洞化が続いていました。そこで地域独自の特例により、土地の建蔽率と容積率が緩和され、高層マンションが建ち並ぶことで、毎日数時間をかけて通勤していた郊外から多くの世帯が移り住み始め、新宿で働きながら、暮らし、子育てもすることが出来る、職住一体の西新宿になっています。

【六本木】

外国人で賑わう夜とアートの街です。東京で最もインターナショナルな文化発信地区として、街にはアートが溢れ、ここに来れば日本のアートシーンに触れられる街となっています。例えば、騒音には騒音をと、高速道路とナイトクラブとが接続されることで、朝まで楽しめる眠らない六本木ナイトが賑わっています。

【杉並区】

高い環境意識のもと、かつての大規模な針葉樹の植林と放置による荒廃林の拡大を危惧し、生産地方との提携により新たな防火システムが施された「杉」の街並へと生まれ変わっています。また、池や川など、水に恵まれた地域を生かして、各家庭の床には冷水や温水が普及し、冷暖房に頼らない環境循環型の街が出来上がっています。

【西東京市】

東西にわたる幹線道沿いにあった流通センターやロードサイドショップが、インターネットの発達によって激減しました。そこで「TOKYO Farming」をコンセプトに、空き地を利用した地域ファーミングによって地域で自給自足ができるような郊外生活が始まっています。また幹線道は流通にも便利なので、産地直送で西東京から都心部へ新鮮な食材が届けられています。

【檜原村】

若者が減り、過疎化と高齢化が進み、森林が荒れ始めています。そこで荒れた森を直し、美しい落葉樹に包まれる「東京リゾート」がつくられました。従来のリゾート開発ではなく、東京から約1時間半、平日は都内で、週末をひっそり檜原村で過ごす人々が増え、檜原村では暮らしの食や知恵を伝えながら、新しいコミュニティが生まれています。

これらは夢物語のようかも知れないけれど、夢を実現するためにはビジョンが必要です。これからの環境と情報の時代の中で、「成長よりも発想」を目指せば実現可能な未来だと思います。豊かな環境をつくるためには、傲慢ではなく謙虚に、地域の環境に対するアイデアが東京の新しいビジョン、新しい未来をつくっていく。東京の未来はまだまだ可能性に満ちていると思っています。