特集記事 第8回

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東京・サステナブル・ファイナンス・ウィークの成果(下)

2021年2月9日(火)、東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラムが開催されました。

サステナブルファイナンスの普及促進及びサステナブルファイナンス分野における東京都のプレゼンスを目指す本フォーラムでは、本分野の第一線で活躍する登壇者の方々をお迎えし、サステナブルファイナンスの幅広い可能性を官民で検討しました。フォーラムには、国内外の金融機関、金融業界団体、民間企業等から多くの方にご参加頂きました。

「東京・サステナブル・ファイナンス・ウィークの成果(下)」では、パネルディスカッションの概要についてご紹介します。

【パネリスト】

アイエヌジーバンクエヌ・ヴィ東京支店/在日代表、マネージング・ディレクター レオ・ヴァン・ステイン氏
金融庁/チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー 池田賢志氏
早稲田大学大学院経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール/教授 入山章栄氏
株式会社日本政策投資銀行/執行役員 産業調査本部副本部長 兼 経営企画部サステナビリティ経営室長 竹ケ原啓介氏
株式会社日本取引所グループ/総合企画部 企画統括役 松尾琢己氏
株式会社三菱UFJ銀行ソリューション本部 ソリューションプロダクツ部 部長(ストラクチャードファイナンス担当) 武藤知樹氏
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス/テクニカル・リード 兼 PwCあらた有限責任監査法人 サステナビリティサービス/パートナー 磯貝友紀氏(ファシリテーター)

【ディスカッション概要】

パネルディスカッションは「サステナブルファイナンスの多様化と可能性」をめぐり、金融行政、金融機関、アカデミアの異なる観点から①日本のサステナブルファイナンスの特徴と動向、②企業価値とサステナブルファイナンス、③非財務情報/ESG情報、及び④脱炭素時代、with/afterコロナ時代や今後の対応等についての議論が行われました。また、パネルディスカッションの最後には、「サステナブルファイナンス先進都市」を目指している東京都に対しての期待などについて各パネリストからコメントを頂きました。

オープニング

ファシリテーターの磯貝氏が、前半の基調講演の内容も紹介しながらサステナブルファイナンスの動向を解説しました。また、サステナビリティファイナンスに関する数字として、①パリ協定を達成していくためには、2020年以降、年間1000億ドル(i)の資金が必要であること、②国際エネルギー機関によると、エネルギーセクターの変革を進めるのに、今後、2兆ドル(ii) が必要であると試算されていること、また、③SDGsを達成するための資金としては、年間2.5兆ドル(iii) が足りないと試算されていることを紹介し、サステナブルファイナンスというのは、大きなニーズとともに、大きなポテンシャルがあるエリアであると指摘しました。

テーマ① 日本におけるサステナブルファイナンスの特徴と動向

金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサーの池田氏が、金融行政のこれまでの取組概況やその意図、株式会社日本政策投資銀行の竹ケ原氏が、日本の金融機関のESG・SDGsへの対応やガイダンス等インフラ整備の状況、株式会社日本取引所グループの松尾氏が、日本企業のESG情報開示にかかる動向等についてそれぞれ意見を述べ、アイエヌジーバンクエヌ・ヴィ東京支店のレオ・ヴァン・ステイン氏は、欧州と日本のサステナブルファイナンスの相違点や日本への期待について考えを述べました。

テーマ② 企業価値とサステナブルファイナンス

早稲田大学大学院経営管理研究科の入山教授が、日本企業の課題として、ESGに対する取り組みが受動的であり当事者意識が低いこと、また企業価値創造のための長期的視点が欠けていることを指摘しました。株式会社三菱UFJ銀行の武藤氏は、企業価値向上に向けた銀行の様々な取組みを紹介し、金融庁の池田氏は、中長期的な企業価値の向上には資本コストを意識した経営が重要であり、そのためには非財務情報で語ることが必要であると述べました。

テーマ③ 非財務情報/ESG情報について

株式会社日本政策投資銀行の竹ケ原氏は、金融機関・投資家にとっての非財務情報の活用方法等について解説し、株式会社日本取引所グループの松尾氏は、企業の非財務情報開示についての動向や企業に求められる事項について解説しました。早稲田大学大学院経営管理研究科の入山教授は、企業の非財務情報開示は重要である一方、最も重要なのは自社の長期的な将来価値の説明能力の問題であり、投資家との向き合い方の問題であると指摘しました。

テーマ④ 脱炭素時代、with/afterコロナ時代、その先

株式会社三菱UFJ銀行の武藤氏は、コロナ時代の変化として、社会や顧客が抱える課題に対してどうやって対応していくかという点で、改めて視点の転換が必要になったと述べ、MUFGとしての取組を紹介しました。アイエヌジーバンクエヌ・ヴィ東京支店のレオ・ヴァン・ステイン氏は、脱炭素化の次の動向として、生物多様性への対応を挙げ、EUで先行している2030年の生物多様性の戦略策定(ⅳ)や、資源の循環(サーキュラリティ)(ⅴ)についての動向を紹介しました。

クロージング

質疑応答の後、パネリストより「サステナブルファイナンス先進都市」を目指している東京都に対しての期待などについてコメントを挙げて頂きました。

パネリストから多く挙がった意見のひとつが、特にサステナブルファイナンスの「エコシステムづくり」への期待です。東京都は国際金融都市として、多くの金融機関が集積し、多くの産業界が一同に介して議論ができる特別な場所です。制度的な側面は金融庁が主に対応していく一方で、制度に現れない「エコシステム」の発展を東京都がサポートしていくことが、サステナブルファイナンスの発展にとって非常に重要だとの意見が挙がりました。さらに、日本企業だけではなくアジアのさまざまな成長企業が資金調達するために内外の資金が流れていくマーケットとしていく、つまり国内の資産を回すだけではなくグローバルに資金を集めていくという視点が今後益々重要になっていくとの意見も挙がりました。

今後も臨場感や現場感がある議論の場を盛り上げていきたいとの意見がパネリストから複数挙がり、東京都のサステナブルファイナンス推進の取組への期待が寄せられました。

【注釈】

執筆:PwCあらた有限責任監査法人

記事ID:000-001-20231008-000429