学生向け金融セミナー 知っておきたい金融の基礎知識 第8回

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皆さん、こんにちは!株式会社WealthLead(ウェルスリード)の濵島です。いよいよ今週16日(土)、17日(日)はセミナーですね!セミナー前のコラムは、今回が最後となります。

皆さんは「フィデューシャリー・デューティー」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。
フィデューシャリー・デューティーは、英語で書くとFiduciary dutyです。直訳すると受託者責任、広い意味で言うと、「他者の信認に応えるべく一定の任務を遂行する者が負うべき幅広い様々な役割・責任」となります。

これは、2017年3月に金融庁が公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」の中で使われた言葉です。この原則は、IT技術の発展や様々な環境変化を踏まえ、経済の持続的な成長と国民の安定的な資産形成を支えるべく、金融事業者のあるべき姿を審議したもので、「国民の安定的な資産形成を図るためには、金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等を行う全ての金融機関等(以下「金融事業者」)が、インベストメント・チェーンにおけるそれぞれの役割を認識し、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)に努めることが重要」と述べられています。
また、「ルールベース」ではなく「プリンシプルベース」を謳ったことは画期的な事でした。細かいルールを作り、それを外形的に守るのに腐心するのはなく、プリンシプル、つまり、原理原則に従って業務運営しなさいということを示したのです。

そして、プリンシプルは次の7つから成り立っています。

  1. 顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等
  2. 顧客の最善の利益の追求
  3. 利益相反の適切な管理
  4. 手数料等の明確化
  5. 重要な情報の分かりやすい提供
  6. 顧客にふさわしいサービスの提供
  7. 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等

いかがでしょうか。細かい説明は省きますが、どれもこれも当たり前の事ですよね。これを金融庁が高らかに謳ったということは、裏返せば、それまで当たり前のことをやってこなかった、顧客本位の運営をしてこなかったところに日本の金融業界に課題があったということです。

では、顧客本位の業務運営をきちんとやっているかどうか、どうやって判断すれば良いのでしょう。
金融庁では、「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI(※)」を定め、公表しています。
共通KPIは、①運用損益別顧客比率②投資信託預かり残高上位20銘柄のコスト・リターン③投資信託預かり残高上位20銘柄のリスク・リターンの3つです。
以下のグラフをご覧ください。これは、投資信託を保有している顧客がどの程度の運用損益となっているかを、業態別に集計したグラフです。(出所は次に掲載したグラフも含めて、金融庁「販売会社における比較可能な共通KPIの公表状況」)

グラフ1

 

あくまでも一時点(2019年3月末)の状況ではありますが、対面の証券会社は、他の業態に比べて評価損を抱えている顧客が多く、評価益が出ている顧客が少ないという傾向が見て取れます。一方、投信会社は、評価損を抱えている顧客は少なく、評価益の出ている顧客が多い傾向が見えます。

もう一つみてみましょう。

グラフ2

 

対面の証券会社は比較的コストの高い投資信託を販売している傾向にあり、ネット証券や投信会社は比較的コストの低い投資信託を販売している傾向が見て取れます。その一方で、リターンは業態ごとの明確な差は表れていません。このコラムでは、業態ごとのグラフの掲載にとどめていますが、金融庁のHPには個社ごとの情報が掲載されています。

この共通KPIだけで判断できるものでもありませんし、まだまだ課題もあります。(例えば、そもそも共通KPIを金融庁に報告している会社が限定的である、等)

それでも「顧客本位の業務運営」への取り組みを、同じ指標で多くの会社を比較することが出来るのは有意義であると思います。資産形成のパートナーとして金融事業者を選ぶ際、あるいは就職先を考える際にも参考になるのではないでしょうか。

(※)KPI(Key Performance Indicators):重要業績評価指標。組織や事業等の目標達成の度合いを計る定量的な指標を指す。

記事ID:000-001-20231008-000370