長谷部健の未来ビジョン

新リアリティ~最先端の田舎暮らし~

―今回のテーマにあたる「最先端の田舎暮らし」について教えてください。

人と人との関係、隣近所のつき合い、友達とか、そういうぬくもりのような感覚ってそうそう変わるものではないですよね。渋谷区は、時代の先を行くIT企業やベンチャーが多かったり、流行に敏感な住民がたくさんいるようなイメージがあるかもしれないけど、テクノロジーと地域コミュニティがうまく融合した「最先端の田舎暮らし」がある街になっていくと思っています。

2050年頃には、今はまだ想像もつかないようなテクノロジーが登場して、例えば、ネットの買い物がリアルな買い物と同じ感覚でできるようになっていたり、アナログからデジタルへの転換もびっくりするぐらい進んでいると思うんです。でも、テクノロジーが進化すればそれだけで人は幸せになれるのか、勉強や仕事、結婚生活や子育てはうまくやれるのか。もちろん違いますよね。やっぱり何かあるんですよ、手触りとかぬくもりみたいなものが。やっぱりそういった人間の根本にある感覚みたいなのはずっと残っていくんだと思っています。だから、「最先端の田舎暮らし」が実現していくんだろうと。

―テクノロジーと地域コミュニティの融合について教えてください。

例えば町会の回覧板は、家から家へ、人が直接手に持って回していますよね。それがSNSとかデジタルサイネージみたいなものに変わっていったとしても、ちゃんとオフ会みたいな活動があったりする、そういうコミュニティであってほしい。

テクノロジーが進んでいけばいくほど、対面のコミュニケーションとかコミュニティにおける交わりみたいなアナログの要素が重要になっていくと思っています。テクノロジーの進化のおかげで新しい時間がきっと生まれてくるから、その時間をどう充実させるかということは間違いなく大事になる。その時間を、地域や社会に出て活動してく人やそこに幸福感を見出す人がどんどん増えていくんじゃないですかね。

―未来の住生活について教えてください。

ジェームズ・ラブロックというイギリスの学者が提案したガイア理論というのが興味深くて、簡単に言ってしまうと地球は1個の生命体で、人間は地球の中で生かされているだけの存在という考え方です。地球上の人間の数が多くなり過ぎれば、やがては減っていく。そうやって、人類の数は適正な水準になっていくんじゃないかな。人口が減っても、都心に人が効率よく集まり、田舎は自然が豊かにあふれているというのも、地球全体のことを考えるとひょっとしたらいいのかもしれないなんて考えています。

そんな未来に生きる人たちはどう生活していくべきか。これも想像できない展開になっていくかもしれないですよね。悲観論とかではなくポジティブに。人口が減っていくと同時に都心回帰が進む、田舎に住みたい人は住むと。都心で「最先端の田舎暮らし」をするか、今までのような田舎暮らしを望むかみたいな分かれ方をしていくような気がします。今ある田舎暮らしも魅力があって、もちろん大変なこともあると思うけど、自然に囲まれながら自給自足したり、住んでいる経済圏の中できちんと生活が完結したり。都心に行かなければいけないエンタメみたいなコンテンツだって現地で観ているのと全く変わらないクオリティで楽しむことができたり、ロボットやAIもきっと何かサポートしてくれるようになっているでしょう。

究極的には、未来の住生活はエネルギー事情の変化の影響を大きく受けると思います。今みたいに都心から離れた場所で発電してそれを届けるというやり方が変わったり、蓄電技術が大きく進化したりすれば、今ある課題が解決するかもしれない。宇宙で発電して、ビームで地球に送電するみたいになったらすごく変わると思いませんか?

―2050年の渋谷はどうなっていますか?

まちの景色が変わっているというよりも人々の生活様式が大きく変わっているかも。自動運転が当たり前になっていたり、歩道が増えたり拡がって歩行者が主役になっていたり。バスや鉄道みたいな公共交通機関がみんな自動運転になっていたり、道路の主役が車ではなく歩行者になっていたりすると面白いんじゃないかな。

今よりもっとみんなの意識が健康とか余暇に向かっていっていると思うから、そういう意識の変化に対応したまちにもなっているかな。あと、エンタテインメント分野では、今以上にクリエイティビティが集積して、“うねっている”まちになっていてほしい。

毎日スポーツをしたいと思っている自分としては、面白くなっていると思いますよ。朝起きて、今日ゴルフしたいと思ったら、そのまま自動運転の車が動き出して。着替えて食事して準備体操をしたら、もうコースみたいなことに。

2050年ともなれば、確実にバーチャルとリアルが融合している。でも、全部がバーチャルになるわけでもない。2050年にこのまちで豊かな人生を送っている人というのは、バーチャルの進化を受け入れた上で、リアルな部分をきちんと充実させてエンジョイできる人なんじゃないかな。

―現在のコミュニティはどのように変わっていますか?

僕はNPOをやっていたけど、まちの掃除をやっていて、近隣に住んでいる人だけじゃなく、そこで働いている人、遠くに住んでいるけどそこが好きで時々遊びに来る人たちなんかがネットを介して集まって、週に何回か掃除して、一緒にご飯食べたりとかしてゆるく楽しんでいる。ああいうのも一つのコミュニティですよね。

結局、コミュニティというのは人と人とのつながりだから、それがネットやSNSを介したものであっても、アナログな従来型であっても、つながりの重要性は変わらないんですよね。つながり方は、バーチャルとリアルの融合が進み、最新のテクノロジーがどんどん出てきて間違いなく多様化していきます。だけど、コミュニティの本質はそうそう変わってしまうことはないんじゃないですかね。

―行政のあり方について教えてください。

こんなに多くの公務員は要らないかも。行政が対応しきれないところでも、社会の課題やニーズをみつけて活動するNPOみたいな存在が出てくる時代だから。そういった団体や活動のマネジメントをすることが行政の一番の役割になっていくべきなのかもしれない。もっと大胆なことを言うと、東京も、例えば4区くらいでもやっていけるかもしれな。東京都というくくりも、大きなくくりとしては残しつつも、東西南北ぐらいでいいだろうと思うし、道州制になって関東州があれば大丈夫な気がします。国会議員も、世界の中の日本について真剣に考える人だけ100人ぐらいでいいみたいな。テクノロジーの進化は、行政のコンパクト化ももたらせると思っています。NPOやボランティアみたいな小さなコミュニティの活躍を応援していく組織を目指せば、小さい政府も実現できます。

コミュニケーションツールとしてのICTが進歩すればするほど、ダイレクトな情報のやり取りのハードルが下がるわけだから、中間的な立場や組織というものがいらなくなっていくと思います。小さなコミュニティの多様な属性の人たちが地域課題を担いつつ、大きなくくりの中でみんなが動いていくというようになっていけばいいですよね。僕も議員出身だけど、議員もあまりいらないよね。もちろん首長も(笑)。