モハメド・オマル・アブディンの
未来ビジョン

「若い子には旅をさせよ」

―懇談会の場で、2050年の未来について、「日本の東京から世界の東京:多様性を武器とした国際都市構想」というプレゼンテーションをしていただきましたが、このテーマを選ばれたきっかけを教えてください。

元々は障害者のことをメインにしようかと思いましたが、少子化が叫ばれる中で、一人一人の子供が将来的に何ができるかを考えなくちゃいけないと思いました。世界は広く、さまざまな社会があって、その社会のよいところ、悪いところを外から見ることが経験になるだろうと思います。

自分の社会を客観的に見るのはすごく難しいですが、外の世界を知った後だと見えてくるものは違うので、やはり小さいときから、いろいろな社会に出ていく機会は与えていかなくちゃいけないですね。

―それが、「若い子には旅をさせよ」というご提案につながったのですね。

もちろん子供たち自身を「行きたい」という気持ちにさせないと始まりません。それはどうすればいいのか、すごく難しい問題ですけれども、多分これから日本がかかわっていかないといけないのは、開発途上国と言われる国だと思っています。そこで重要なのが、「国際協力」です。当然ながら、開発途上国には、まだ日本と協力する余地がたくさんある。それをきっかけに、日本や世界にとっていいマッチングをしていくという、ハブに東京がなれれば、と考えました。今は、国際協力のハブはヨーロッパ中心で、特に北欧のあたりが国際協力をリードしています。

―実体験を積ませるタイミングはいつ頃がいいですか。学生時代というと、大学生あたりでしょうか。

それぞれの人が育っている環境は違いますね。年齢で切ってしまうよりも、フレキシブルに対応できるようにしたいです。「留学」と言わずとも、世界を知るプログラムとしてやれればいいです。いつ、自分がそういうことをやりたくなるかというのも異なるので、いつでも挑戦できる、というのが理想ですね。

―机上の議論だけでなく、体験することで、自分のこととして考えられる、という面もありますね。

現地に行けないとしても、日々の生活の中で世界を感じることも大事ですね。例えば自分たちが使っている様々な商品がどこから来ているか、想像を膨らませていくこともできます。日本は海に囲まれているので他国とのつながりを感じにくいですが、世界と日本は密接な関係を持っていることを認識できますね。携帯電話に入っているレアメタルがコンゴといった紛争地域から来ていることを踏まえてどう感じるか、といったことですね。

―アブディンさんには、「人の力が重要」とお考えが根底にあるのですね。一方で、これまでの懇談会では、AIなどの発達により、人間の労働がいらなくなるといった議論もありました。2050年頃の未来を語る上で、科学技術の進歩についてはどう思われますか。

私はAIの話はあんまり…もちろん、これから介護とかいろいろな問題の解決に資するでしょう。ただ、AIが人にかわるときに、代償のようなものもありますよね。正直なところ、私は技術の発達がよいという価値観自体にあんまり賛同できていないです。もちろん、例えば自動運転の車は目が見えない自分にとっては、すごいいいものだったりするので、恩恵を受けたいですが、それよりもAIを操れる人間の人間力というか、キャパシティーを上げないと、AIを賢く使いこなせないのではないでしょうか。

これから、人口減少が進む中で、少ない人間でどう日本を支えていくか。国際協力が重要だと提案したのは、ソフトパワーとして、外交手段として使えると思ったからです。

―現在、アブディンさんは大学で学生と日々接していらっしゃいますが、今の日本の若者に物足りなさを感じることはありますか。

私はNPOをやっていて、大学生を中心に団体を支えてもらっていたので、世間のイメージとは全然違う。若者は、「これをやりたい」というものが見つかれば、すごい力を発揮する。そして自ら調べたりとか、いろいろやる力は結構あると思います。つい、次の世代をバッシングしてしまいがちですが、そのトラップにはまりたくないですね。大学にいると、ふらふらしているように見えても、話を聞いたら、実はボランティア活動を熱心にしているという人はたくさんいるわけです。今の若者は、自己主張をしたがらないところがあるかもしれないですね。

―人生を全体で考えた時に、「学校で勉強する」「会社で働く」「定年後の第二の人生」のようにはっきり分けるのではなく、多様な生き方をして、迷う時期がいつあってもいいじゃないか、ということでしょうか。

そうです。20歳までは迷う時期で迷う必要があるが、日本の制度は迷う時間がない。若者が多様な生き方をすること自体が難しい。おそらく留学の話を持ち出したとしても、これは受験に差し支えるからだめという親が出てきてしまうでしょう。学び直すとか、働き方を変えるとか、もし2つの会社に入りたいと思ったら入らせてあげられるとか、そういうフレキシブルな制度がどんどんできるとすごくいいのかもしれない。自ら飛び出していけるというのは最初の一歩です。

―最後に、2050年に向けて、未来を担う子供たちへのメッセージをお願いします。

自分たちの興味の範囲を大きくすることはすごく大事ですね。一旦怖いだろうけれども、出たら、もっともっと心地よい世界があるということをすごく感じてもらいたいです。小さくまとまらず、抽象的ですけれども、心地よい領域から、飛び出したら守られない領域に飛び出したら、もっともっと心地よい世界があるということを伝えたいなと思います。