蜷川実花の未来ビジョン

東京をアートの街にする

―まず初めに、映像技術は劇的に変化していますが、蜷川さんにとって「写真」とはどのような存在でしょうか?

写真を撮るって実はすごくポジティブな行為だと思うんです。基本的に、何かを残したいと思った時にシャッターを押すじゃないですか。

例えば、子供が生まれて、子供がかわいいから残したいとか、桜を見に行って、桜がきれいだから残したいとか、つき合い始めの人と一緒にいて楽しい気分を残したいとか、よく考えたら、ほとんどがプラスの感情だし、残しておきたい大切な思い出に対してシャッターを切るんですよね。それってすごく大切なこと。

あとやっぱり面白いなと思うのは、写真を撮ろうって世界を見ると、どんどんすてきなことを見つけるわけですよね。

例えば、毎日、家から駅まで行く道でも、今日は写真を10枚撮るぞと決めて歩いてみる。そうすると、10個のすてきなことに気づくんですよ。「今日は天気がこんなにいいんだな」とか「この間は咲いていなかった花が咲いてきたな」とか。

世界は基本的には美しくてすばらしいんだけど、それに気づけない忙しさだったり、こちら側の問題も大きいんですよね。

でも、写真を撮ろうというふうに気持ちを切り替えることによって、気づかないことに気づけるきっかけにもなるし、生活の中にもとからある、すばらしさを改めて実感させてくれたり、思い出させてくれるものだと思います。

―子供たちが、日常の中のすばらしいものに気づいたり、芸術的な感性を身に付けるにはどのような環境が必要ですか。公園などをそういう場にするとか?

そういうのもありですよね。でも、公園に何の解説もなく彫刻とかが飾ってありますけど、そういうことよりも、面白いものを探すワークショップとか、何か体験ができるようなプログラムに助成してあげたりするといいんじゃないかと思うんですよね。やっぱり実際に体験すると全然違うじゃないですか。だから、銅像は要らないかな(笑)。

―具体的に、どのような体験プログラムがあるといいですか?

昨年の夏に福島で秋元康さんの呼びかけで、私と宮本亜門さんと三國シェフと久石譲さんが集まって、中高生に教えるというワークショップ、1日だけのドリーム授業みたいなのをやったんですね。

それって、子供たちにとって一生の思い出というか、何かが変わるきっかけになった子もいるぐらい、皆さんものすごく熱のこもったいい授業だったんですよ。そういうことを定期的に東京でもやったらいいのになと思います。

体験するってすごく重要なので、そこに行くきっかけをつくることが最も必要なんです。そこで、人から何か教えてもらったりとか、自分がちょっと体験して、「あっ、なるほど、こんなに違うんだ」と思うことがすごく大事なような気がします。

そういう行動のきっかけとなる、ちょっとした背中を押してあげられるようなイベントがあったらいいなと思いますね。

―もっとアートに親しむために、何かアドバイスがありましたらお願いします。

アートに興味ない方って、あんまり美術館に行こうと思わないじゃないですか。でも、ちょっとした説明を加えてあげるだけで面白く思えるので、こうこうこうだから面白いんだよと伝えるプログラムを美術館でつくるとか。もっと身近なこととして受けとれるような仕組みがいるのかなと思ってます。

例えば「ロダンの彫刻」って聞くと何となくイメージは湧くけど、作品の背景は知らない人が多いと思うんです。実は、この像は愛人をモデルにしていて、こっちは本妻でみたいな彫刻がいっぱいあるんです。ルノワールでも、女の人の肌がふわふわしているのは、彼の趣味趣向がそのまま出ているんですよ。特に異性に対する思いみたいなものってものすごく出ちゃうので「この肌ふわふわしているよね」とか「この髪の毛かわいいよね」とか思いながら作品をつくっていたはずなんですね。

ちょっとそうやってアートに触れてみてください。「教科書に載っていた作品だから」「これはすばらしい芸術なのだ」って思いながら観るのとは全く違う楽しみ方ができるので。

―日本だと、どうしても、そうやって見なくちゃいけないと思いがちですが。

ヨーロッパだと本当に子供が美術館にたくさんいたりとか、今日は遊園地行くかみたいな感じで美術館に行っている光景を見ると、やっぱり小さいときからそういう訓練がある程度できているし、慣れ親しんでいるんですよね。本来、難しいものではないので、もったいないと思います。

―東京を、海外に誇れるアートの街にするために何が必要ですか?

東京のランドマークって何だろうと考えると、夜遊びに行くところって意外となくて、外国の方が来たときに、ここ行ったら面白いよねっていう場所がもっといっぱいあったらいいのにと思いますし、若い子たちがやっているカルチャー的なことが一遍に観られるような場所がなかったりするので、アーティストがつくるホテルみたいな、アートとホテルが一緒になっているような建物があったらいいなと思います。

例えば、六本木アートナイトって結構うまくできているなと思うんですけど、ああいうお祭りみたいな、美術館から外にあふれ出たようなイベントがもっとたくさんあったらいいなと。街にアートがどんどんあふれてきたら、知らないうちに接することができたりとか、美術館で観るだけがアートじゃないよねということを体感できるようなプログラムをやったらいいんじゃないかな。

私は東京生まれの東京育ちなので、やっぱり東京は日本中で一番熱く表現できる都市であってほしいし、かっこいい街というのは絶対キープしたいですね。

―最後に、2050年の東京はどうなっていてほしいですか?

冒頭にも話しましたが、写真を撮るっていうことをきっかけに、自分たちの生活のもとからあるすばらしいことに気づくことができます。

未来の東京は、もっと芸術が街にあふれ、写真を撮りたくなるような幸せな瞬間にいつでも出会える街になっているといいですね。