西田圭志の未来ビジョン

持続可能な水産物

―まず初めに、西田さんが東京大学を卒業後、漁業の世界に入ろうと思った理由を教えてください。

一言でいうと、自然を相手に仕事ができること、そして努力の結果が漁獲量という数字にあらわれ、収入につながるという点を魅力に感じたからですね。

例えば私が好きなキンメダイ漁の場合、沢山釣れるかどうかは、釣るポイントを見極める事が重要になります。潮の流れの変化を予測した上で、沢山の魚群の反応があるスポットを見つける。そして釣り針の重りが海底に着いた瞬間、魚の当たりをさおに感じると、心の中でよっしゃとガッツポーズがでます。リールを巻くと釣り針に全部キンメダイが連なって掛かっている姿は壮観です。こんな風に自分で創意工夫して漁を行い、それが結果にダイレクトにつながる。そんな喜びを感じられるところが漁業の魅力の1つだと思います。

―そんな魅力ある漁業の2050年の姿はどうなっているでしょうか?

未来の漁業を考える前に、いま魚の捕り過ぎによる水産資源の減少が問題になっている事に着目するべきです。魚を捕る技術が発達している事で、クロマグロやウナギなどは資源量が減り絶滅危惧種に指定される可能性があると言われています。ほかにも、マサバやキンメダイ、スルメイカなど、日本人が大好きな美味しい魚の資源が減っています。でもその事実を知らない人が多すぎると危機感を持っています。

―2050年には私達日本人が好きな魚が食べられなくなると?

最近、家庭での「魚離れ」が進んでいるといわれますが、現時点で日本には豊かな魚食文化が残っていると思います。日本国内に流通している魚は200種類ぐらいあるそうで、外国よりずっと多い。日本人は多様な魚を楽しんでいるんです。でも、2050年にも美味しい魚を食べられる社会にするためには、「水産物の持続可能性」をいかに守るかが鍵になると思います。

―「持続可能性」は、東京2020大会のキーワードでもありますね。

そうです。水産物についても持続可能性に配慮した調達基準が設けられていて、国が総漁獲量の上限を設定することで資源を守る制度があるのですが、現在、7魚種のみを対象に実施されており、多様な日本の水産物をカバーしきれていないんです。このため、我々のような漁業者が自主的に資源管理を行っています。都のキンメダイ漁では、漁業者同士の話し合いで禁漁期間の設定や体長制限などが行われています。資源管理が適切に行われていることは、東京オリンピックの水産物の調達基準にも含まれているんですよ。

―なるほど。でも競争相手でもある漁業者同士の取組で資源確保は上手くいくでしょうか?

確かにもっと獲りたいと考える漁業者はいると思います。そこでキーとなるのは「消費者」なんです。実は水産物に関する正しい情報が消費者に伝わり、その情報をもとに適切な商品選択が出来る環境が整えば、漁業の未来は明るいと思っています。

もう少し具体的に言いますと、魚の資源状態や漁業者による自主管理の取組を科学的に評価して、その情報に誰でもアクセスできるようにする事で、消費者はより持続可能な選択が出来るようになり、評価される側の漁業者もどのような管理方法が適切かを判断することができます。

また、商品の流通経路を遡ったり、追跡したりするトレーサビリティの手法で魚の漁獲方法や漁獲海域まで遡ることができれば、同じ魚でもより持続可能性の高い漁獲方法であったり、海域の魚を選択することができます。さらに、神経締めや血抜きなどの鮮度保持のための方法も分かれば、消費者はよりおいしい魚を選択することができます。

消費者の選択をもとに漁業者が魚の獲り方を判断できる仕組みができれば、美味しい魚を安定して獲ることができるんです。

―では、「水産物の持続可能性」という前提が整ったとして、2050年の漁業はどのような姿になっているか、改めて教えてください。

はい。東京の海には魚が沢山いて、いかに多く魚を捕るかという漁業の魅力は、いかにおいしい魚を捕るかという魅力に変わっていると思います。漁業の「きつい」、「汚い」、「危険」の「3K」の部分は、機械化されて作業が楽に、漁師の経験と勘は人工知能に代替されることで、若者の新規参入のハードルが下がります。魚の生態の解明や漁具の進化によって、大きくて脂が乗ったおいしい魚だけを選択的に捕ることができるので、市場には今よりももっとおいしい魚が並ぶでしょう。

また、資源状態などの情報がきちんと伝わることで、密猟や産地偽装はなくなり、消費者は本当に欲しい水産物を選ぶことができます。さらに、持続可能性についての意識が高まることで、今まで利用されてこなかった魚の価値が見直され、みんなが知らなかったおいしい魚が食べられるようになるかもしれません。

―最後に、2050年に西田さん自身はどうなっていますか?どうなっていたいですか?

2050年の私はまだ50代ですし、漁師を続けていると思います。でも漁師の仕事は大きく変わっていて、経験と勘の世界は人工知能などの科学技術に代替されると思います。そんな時代の到来に当たって、デジタルネイティブである私達の世代が、漁師の技術や勘と科学技術の架け橋になれるようになりたいです。

それと、漁師の水産物の需要はなくならないと思うので、今食べている魚が変わらず2050年も食べられていたらいいと思います。また、今は食べられていない魚も注目されるようになっていたらいいですね。